激重シナリオで関係性を見せてくれ
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これからシナリオをプレイされたい方
ネタバレなのでご覧になりませんように
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キャラクター紹介
PL 姉 : シルヴァ
悠久の時を生きてきた魔女。優しさと親切心を持ち合わせてる。柔和で温かい性格。ヴァレンとは長年ずっと一緒に居る。
KPL 妹 : ヴァレン
ヤクザ。常に冷静でありながらも明るく飄々とした雰囲気を漂わしている。シルヴァとは長年ずっと一緒に居る。
本編
前日譚『蛇神と人の子』(本篇に無い)
生まれつき、私は他と違った。ヘビでもなく、人間でもない。それどころか蛇神として人々から信仰を受けるようになった。信仰が私を包み込む熱さを感じるたびに、私は人が持つ熱を愛するようになった。
時が経ち、次第にその風景は変わり始める。人々は姿を消し、信仰も消え去り、私に敵意を向けることさえあった。私は自問する。何故、人を愛しているんだろう。その答えはだんだんと見えなくなった。けれど、愛しているんだろう。私は神なのだから。ずっと、そう思っていた。
……アイツが来るまでは。
*
今日も愛しいダイダラボッチが誰かを喰ってしまったようだ。かつて、私が彼に熱を与えて増幅させたためか、逆に彼が喰った人間の記憶が私の中に流れ込むことがある。その記憶は生々しく、様々な感情が溢れ出す。
しかし、今回の記憶はいつもとは異なっていた。ヴァレンの記憶する人間は異様に懐かしく、酷く温かい。その温かさは、自身が初めて人間を愛したときの記憶を呼び起こした。
私がまだ小さな神だった頃、人間によって住処を追いやられた時代。ある日、山村に一人の少女が現れた。彼女の目には蛇神に対する畏怖や敵意はなく、純粋で真っすぐな温かさが宿っていた。少女は私の衰弱が治るまで山に登ってきて、様々な話をした。
小蛇神「なぜ手を差し伸べる? 知られたらお前も孤独になるぞ」
子供 「助けるのは人として当たり前ですから気にしないでください」
小蛇神「人間は自分勝手だ」
子供 「未熟で愛らしいじゃないですか。未熟なものは導き、守りましょう。お互い支え合って愛情は生まれるのです」
小蛇神「お前の話は何時も難しいな」
子供 「そうでしょうか」
小蛇神「また来るか?」
子供 「貴方が願うなら。いつか種族を越えた平和な世界になりますよ」
ヴァレンの記憶にいる温かな魂を持つ女は魔女だったので、私の知る少女では無い。それでもヴァレンの記憶にあるシルヴァは、どこか彼女に似ていた。特別に、願いを叶えてやろう。そう思ってしまう程に。
ヴァレンは正しくあろうとする。そして、シルヴァのためなら突き進む強さを持っている。
二人ならば、何か変えられるのではないか。
前日譚『ヴァレン』
誰かが呼んでいる。何かを待っている。
声は木霊して、どこか遠くに消えていく。
あなたは待っていた。このくらい森の奥で。
蛇神「お前の望みは聞こう。その代わりにお前の魂はこの山で溶けるだろう」
それは、シルヴァとは二度と会えないことを意味していた。
ヴァ「構わない」
それでも、構わなかった。シルヴァがこの山に囚われないように。彼女の愛情深い心が山の中で枯れることなく、世界中に光を広げるべきだ。それに……異質に育った自分より、同じだけの愛を返せる人間がシルヴァの側には居るべきだ。
蛇神「まだ命の火が残る彼の者を無事に下ろす」
ヴァ「そうだ」
蛇神「お前の火は消えている」
ヴァ「知っている」
蛇神「彼の者のすべての熱が奪われる前に、清めることが必要だ」
ヴァ「分かった」
蛇神「付き添うことは認めよう。禊にお前自身が口を出してはいけない」
ヴァ「ああ」
蛇神「契約は成立した」
ヴァ「感謝する」
蛇神「全部くれてやる。だからどうか、終わらせてくれ」
久遠の呼び声
どこか暗い場所。蝋燭の火が薄闇を照らす。膝を崩したあなたは、彼を抱きしめていた。
彼はあなたの名前を呼んでいて、その声は少しだけ悲しそうに聞こえた。返事をしたかもしれない。
何も言わなかったかもしれない。今思えばどちらでもいい事だった。これは夢なのだから。噛みつかれた首筋が無性に熱かった。
*
目を開ける。乳白色の薄霧に包まれている。立ち並ぶ樹木は幻影のように霞んでいる。あなたは赤い着物を身に纏っている。
繋がれた手の先には彼がいた。現実味のない空間で、彼の存在は馴染んでいて、それは自分も同じだった。
[雑談] 姉 : 映画か?
シルヴァ(……ここは何処?)
周囲は濃い霧に包まれている。細く高い木々が森の奥まで続いていた。ふと足元を見れば小さな瓶が落ちている。底には薄く赤い液体が残っていた。瓶は手に収まる瓶だ。液体は元々量があったようで、瓶の上部にも僅かに赤い液体が付着している。
シルヴァ「ヴァレン、大丈夫?」
ヴァレン「あぁ……目覚めたらこんな場所にやって来るとはな、今度は何だ?」
シルヴァは記憶を辿る。あなたは変わらない日常を過ごしていた。そして夢を見て……気が付けばこの場所に居たのだった。見える範囲に怪我はない。
しかし、あなたの頸動脈には僅かに疼くような違和感があった。触ってみると平行に、ぷつりぷつりと穴がふたつ空いている。それを見たヴァレンはあなたの首元を見て言った。
ヴァレン「首元が少し腫れているな。覚えは? 虫刺されではない。歯型……にしては細い。何の痕だ」
ヴァレン「牙痕……牙じゃないか。蛇だ」
赤く腫れて牙痕をみとめるときは毒ヘビの可能性が非常に高い。ヘビ毒は、①出血毒、②神経毒、③ 筋肉毒などに分類されるが、何れも本体はタンパク質である。噛まれた時に慌てて動き回ったり、走り回ったりすると手足の血流がよくなり、その分、短時間で全身にヘビ毒も回ってしまう。
通常であればただちに医師の診察を受けるべきだが、難しい場合は、噛まれたところより中枢側をタオルなどで軽くしばり、噛まれた箇所は氷水などで冷やすのが適切である。
ヴァレン CCB<=55 【アイデア】 (1D100<=55) > 8 > スペシャル
ヴァレン(医療機関にかかれないこの状況下では、水場を探し冷やすことが先決か)
ヴァレン「あまり動かない方がいいな、俺の背中に乗って」
そういってヴァレンはシルヴァを背負い、水が近くにないか探した。
シルヴァ「ごめんなさい……」
あなたは慎重に、反響する音を聞き分けながら森の中を進んでいく。しばらく歩けば、沢に出る。下流へと流れる水音が、先程自分たちのいた場所まで聞こえていたようだ。湿った苔、濡れる岩の隙間からさらさらと音が響く。
流れる川の岩と岩に挟まるような形で、着物が引っ掛かっていた。見た所汚れはなく、水によって清潔に保たれていたのかもしれない。
シルヴァ「誰かのかもしれませんね。目立つよう枝にひっかけましょう」
ヴァレン「こんな山誰もいないさ、この着物を使って冷やすぞ」
ヴァレンは着物を破ると、川の水で冷やし、シルヴァの患部へ固定した。
シルヴァ「あまり具合は悪くないから大丈夫ですよ」
ヴァレン「毒がまだ回っていないってことだろ」
ヴァレン「周囲の状況を判断できそうな拠点が欲しいな」
ヴァレン「……これはいつも通りただの夢や遭難じゃない。俺達がここにいる理由が分からなければ、帰してくれないんじゃないか?」
ヴァレン「今日は近場で休める場所を探す。怪我をしている状態で歩かせる訳にはいかないから、少しここで待っていてくれ」
あなたが座っているのを見てから、ヴァレンは残りの濡れた着物をさらに裂く。細いリボン状の布をいくつか作ってから、立ち上がって森の中へと歩き出した。木に結んで目印代わりに使うようだ。彼は奥へと消えていった。あなたは一人、川辺に残されている。
シルヴァ(理由……)
シルヴァは対岸の林の中をちらちらと動くものを見た気がした。霧中に揺らめく幾つもの人影。錫杖の音がじゃらん、じゃらんと鳴る。それを率いるような腹の底にまで届く法螺貝の音。目を凝らせばそれは白装束に身を包んだ者達の姿であった。
「ろーっこん しょーじょう ろーっこん しょーじょ」
「さ~~~んげ さんげ~ぇ」
「ろーっこん しょーじょう ろーっこん しょーじょ」
「さ~~~んげ さんげ~ぇ」
シルヴァ(聞きなれない……)
山々、谷々をこだまして響き渡る。川の向こう岸から此方の岸に渡ってくる。それらは皆足が無い。水面を雲が走るように、岩にも水流にも遮られず、皆同じ足取りで、やって来る。あなたの周りには無数の白い影が回っていた。
「ろーっこん しょーじょう ろーっこん しょーじょ」
「さ~~~んげ さんげ~ぇ」
「ろーっこん しょーじょう ろーっこん しょーじょ」
「さ~~~んげ さんげ~ぇ」
白い無数の影の中、形ある六人の男の影が言う。男の丈は皆八尺を超えている。何処かに逃げることはできそうにない。
お釈迦様の教えに従って六根を清浄してますか。六根は人間の認識の根幹であり、私欲や煩悩、迷いを引き起こす目・耳・鼻・舌・身・意の六つの器官を言う。眼根(視覚)、耳根(聴覚)、鼻根(嗅覚)、舌根(味覚)、身根(触覚)、意根(意識)、である。と言っているように見えた。
「八百、千二百、八百、千二百、八百、千二百、八百、千二百」
「其の眼、穢れあり」
「其の耳、穢れあり」
「其の鼻、穢れあり」
「其の舌、穢れあり」
「其の身、穢れあり」
「其の意、穢れあり」
「清めよ。清めよ。清めよ。清めよ。清めよ。清めよ」
六人の男たちは順番に謂う。
「マイレ。回帰し、退けよ」
「清めよ」
あなたにひとしきり話した後、彼らはまた歩み始める。
「ろーっこん しょーじょう ろーっこん しょーじょ」
「さ〜〜〜んげ さんげ〜ぇ」
「ろーっこん しょーじょう ろーっこん しょーじょ」
「さ〜〜〜んげ さんげ〜ぇ」
錫杖と法螺貝の音は次第に遠のいていった。しばらくするとヴァレンが帰ってくる。
ヴァレン「待たせたな。向こうに家を見つけた」
ヴァレン「ただ、奇妙な場所だ……見れば分かると思うんだが」
木々の枝に結われた布をたどりながら進んでいけば、一つの家に着いた。山中とは思えない立派な作りの家だった。庭には大きな山桜の木が生えている。
ヴァレン「…中は片付いていた。人がいないのに、生活感もあったんだ。だが誰かが帰ってくる様子もない。もう一度見てみるか」
来る途中シルヴァは先ほどあったことをヴァレンに伝える。
ヴァレン「修行僧か……? でも、シルヴァが無事でよかった」
シルヴァ「まだ何がこの世界の目的か分からないのですが、六根の清浄と、『マイレ。回帰し、退けよ』とは言ってました」
ヴァレン「なるほどな……?」
入ってぐるりと回れば、座敷、土間、台所、脱衣所、風呂場があるような日本家屋であることが分かる。造りは古いが、手入れがされていた。和室には膳が置かれ、料理が出してある。それを見たヴァレンが息を呑んだ。
ヴァレン「さっき来たときには無かった。毒が入ってるかも知れねぇな」
膳は丁寧に、白米、汁物、漬物、和え物、煮物と準備されており、二人分用意されていた。先程まで歩いていたこともあり、空腹感があなたを襲う。
シルヴァ「迷い家という、訪れた者に富貴を授ける不思議な家を聞いたことがあるわ。食事が用意してあり鉄瓶が煮えたぎったりしているのに、人の気配はまったくない。訪れた者はその家から何か物品を持ち出してよいことになっており、日用品を持ち帰ると、幸運が訪れる。しかし誰もがその恩恵に与れるわけではない。邪な思いを抱いたりすれば、その邪念はいつか帰ってくるとも言われている」
ヴァレン「なら邪な気持ちさえなければ、ありがたい場所なのか」
シルヴァ「お返しに蒔きを割っておきましょう」
ヴァレン「そうだな。どこまでここにいるかわからないから、飯も食べておこうぜ」
食べるならば非常に美味しい。汁物は熱く、先程椀に入れられたばかりのようだ。舌鼓を打つような料理の数々に箸が進む。あっという間に食べ終わることだろう。
シルヴァ「ごちそうさま、美味しかったね」
ヴァレン「ふぅ体力が回復した」
箪笥から巻物を発見する。そこにあるのは奇妙な魍魎の宴である。人間と共に人ならざる何かが描かれている。それは頭から長い一本足が生えている生き物であった。噛みつき殺しあうもの、人間と交尾をするもの、人と語り合うもの。
とぐろを巻くそれは、奇妙であったが妙な神々しさがあり、描いたものはこの生物に畏怖の念を抱いているようだった。その一本足の生き物の頂点に立つのは、人型の鱗に覆われた何かであった。その側には女性の巫女がいる。
(蛇神信仰)
古代に蛇神信仰というものがあった。
毒蛇、蝮などの強烈な生命力と、その毒で相手を一撃の下に倒す様、
性に対する憧れ、崇拝、畏怖、歓喜が凝縮されて象徴になっているように見える様、これらのことが相乗効果を持って、蛇を神にまで高めていったものと思われる。蛇に対する畏敬と嫌悪は「忌み」という言葉で何とか統一しえた宗教感情であり、他方、「象徴化」という行為で克服しえた信仰でもあった。しかし時代が下るにつれて蛇はうとましく思われるようになり、神話の表面から隠されていった。
ヴァレン「明日は周囲を回って、手がかりを探すか」
ヴァレン「後はシルヴァの怪我についても調べたい。見た所遅効性のようだから、早いうちに手を打てればいいんだが」
ヴァレン「この家は風呂の準備もしてあったから入ってもいいんだろうが……軽く流すくらいにしておけよ」
ヴァレン「不思議な場所だが、今日のうちはあやかろうぜ。俺は使えるものがないか家の中をもう一度見ようと思う」
ヴァレン「早く風呂に入ってきたらどうだ。安全に眠れるうちはなるべく長く寝るぞ」
ヴァレンに促されて、シルヴァはお風呂に向かうことになる。自分の肌に湯をかける。
……しかし全く温まる気配がない。寧ろ熱が奪われている。指先から冷えていき、みぞおちに冷たいものが溜まる。
思わず身震いをしてあたりを見ても、なにもない。この感覚は、最初の首の疼きとはまた違うものだった。大きな何かがこの山一帯を包んでいて、自分にうっかり触れたのではないか、などど思った。風呂場には木の窓が付いている。
その外は、暗い。暗闇の向こう、地形の起伏の先に谷が見えた。暗がりの底を、何かがのたうっている。山を呑む無形の流動体。そこから絶えず奇形な形をした黒い塊が生まれ落ちては、消えていく。自分たちはこのような生物がいる山にいたのか。
粘着質の巨躯は黒い触手を伸ばしては蠢いていた。あなたはその様子を見て、風呂からあがることになる。風呂を出て和室に戻れば、床に置いた紙を睨むヴァレンがいた。布団は二枚並んでいる。彼が敷いてくれたようだ。
ヴァレン「地図のようなものを見つけたんだが、所々描き方が不明瞭なんだ」
覗けばこの家の周辺の地図であることが分かる。近くに谷があり、尾根へ続く道が記載してある。他にも渓流、洞窟、森林の目印になる点も書いてある。だが肝心の、山を降りる道や人里へと続く道の記載は一切ない。
シルヴァ「この山が人体のように当てがわれていて、それぞれを清めるということでしょうか? それとも風呂場から山奥に黒い流動体がいたから、それを鎮めるのかしら……? まだ分からないね」
ヴァレン「黒い流動体か……只の山では無いらしいな」
シルヴァ「その印に向かってみれば何か進展するかも」
ヴァレン「たしかに、今俺達が持っている情報はこれだけか。あ、シルヴァ。寝る前も首を冷やしておけよ」
冷たい布をまたシルヴァの患部へ当てる。あなたに触れた彼は、顔を顰めた。
ヴァレン「やけに冷えているな。自分で分からないのか? 結構だぞ。風呂に入ったんだろう」
シルヴァ「毒のせいかな。。。それとも何か別のことが起因しているのか」
ヴァレン「両方もありえるな。早く山から脱出しないと」
ヴァレン「また……異変があったら言ってくれ」
*
会話を終えたあなた達は眠りにつく。
……昨日の夢の続きだ。暗い夜。あなたの隣には彼がいる。
彼はあなたを見ている。
ヴァレン「問いに三つ、答える」
と、謂った。
シルヴァ「この世界から抜け出す方法は分かる?」
ヴァレン「身を清める。この霧を晴らす」
シルヴァ「その行為は具体的にどうしたら良いの?」
ヴァレン「お前達は、これから試練がある。それを穢れのない方法で解決していくのだ」
シルヴァ「そっか。じゃあ最後……(聞きたいことは山ほどある。ヴァレンも同じような夢を見てるのかな? 何故私たちなの? 色々考えたけど、少しでも進展のある情報が良いよね)この傷跡にはどんな理由があるの?」
ヴァレン「未練の毒だ。まだ進行してないようだな。進行は6段階あり、最後にはほぼ動けなくなる。そして探索が不利になるだろう」
シルヴァ「情報をありがとう」
黒声
(夢の終わり)
暗い夜。あなたの隣には彼がいる。彼はあなたを見ている。目が覚めた。今思えば、夢の中で最初、のたうつように体が熱かった気もするが、今は恐ろしいほどに冷えていた。寒い。先に起きていたヴァレンがあなたに声を掛ける。
ヴァレン「起きたか、もう日は昇っているぞ。霧で相変わらず視界は悪いが」
ヴァレン「先に起きたから家をもう一度回った。変化は無いな。今日から食事も自分たちで用意することになりそうだ」
ヴァレン「森で山菜を採るなり、川で魚を取るなりしないといけない」
シルヴァ「寝坊しちゃいましたね。地図の探索をしながら食料調達もしましょう」
ヴァレン「裏手には蔵があったぞ。まずはそこから行こうぜ」
シルヴァ「うん。そうしよう」
向かう途中、ヴァレンは夢を見た? と、シルヴァは昨日今日と続けてみた夢の説明をする。
ヴァレン「俺が夢に出たのか……?」
ヴァレンがニヤニヤと嬉しそうに笑う。
シルヴァ「何だか悲しそうだった。この世界に関係あるのかな?」
ヴァレン「俺は夢を見てないからなぁ。シルヴァに何か伝えたかったんだろう」
シルヴァ「そっか…毒の対処法についても聞けばよかったな」
ヴァレン「正確な回答してくれるとは、不思議な夢だな」
蔵に行くまでの道には馬屋があった。中を覗けば、馬が一頭おり、草を食んでいる。若く健康な馬だ。
シルヴァ「いずれ毒が回るから一緒に連れて行きたいけど、この子はここに居た方が草もあるし幸せに暮らせるかもしれない」
ヴァレン「でも草も残りわずかだ。連れて行こう」
シルヴァ「じゃあ黒曜(馬の名前)、一緒に旅に出てくれる?」
馬の手綱を引いて連れて行こうとすると、馬はブルルンとお辞儀をした。
*
長らく人が出入りしていなかった蔵。重い扉を押すと、軋む音を立てながらゆっくりと開く。
六根清浄大祓、と書いてある巻物を見つける。
ヴァレン「良くないことや嫌なことが有っても、心にいつまでも留め置かないようにすれば心身ともに健康でいることができるという内容だ」
ヴァレン「この場合の「心に留め置かない」とは、嫌なことを一度受け止めて整理することだな」
ヴァレン「……心の中で整理できれば、悪しきものに囚われずに済むってことか」
ヴァレン「六根清浄なるが故に五臓の神君安寧なり~為す所の願として成就せずといふことなしの内容は、六つの感覚機能によって生じる感情によって、心を傷つけず心を大切にしていくならば、体の内臓の機能も正常に働いていく、心も体も安らかにして本来の正しい働きをしていくならば、神から生まれ出た私達は神と同じ存在となっていく。
神と同じ存在となれば、同じ神から生まれ出た大自然の万物とも同じ存在となる。そして、神と同じ清らかな心で願うならば、親である神も、兄弟である大自然の万物も皆聞き入れてくださり、願い事をかなえてくださるという、神道の祈祷の極意を教えたものである……と」
ヴァレン「神と同じ清らかな心で願うならば、親である神も、兄弟である大自然の万物も皆聞き入れてくださり、願い事をかなえてくださるってことか」
ヴァレン「そのため修験道では不浄なものを見ない、聞かない、嗅がない、味わわない、触れない、感じないために俗世との接触を絶つことが行なわれた。それは主に山籠りなどを指す。
山は神仏の顕現そのものであり、その山々に対して自分の罪を告白し、浄化される行為が懺悔(さんげ)である。役行者の遺訓には、『身の苦によって心乱れざれば証果自ずから至る』というものがある」
ヴァレン「修行を積んで身体を苦しめなさい。もし、その苦しみによって心が乱れないならば、悟りの境地も神通力(超能力)も、ごく自然に身に付くって意味だ」
ヴァレン「……ふぅ、長い巻物だな」
ヴァレン「まぁ困難を回避するにも慈悲あるやり方を探したりするのが大切みたいだな。それで回避出来なかったら元もこもないが」
本棚
土地にまつわる神について書かれた本を見つける。
(土地神)
この地は長らく、蛇神によって守られてきた。
元は知性なき蛇たちの山であったが、偉大なる神のカエリとなる存在が現れたことに因って、統治がなされたのである。
山人、経立の御犬に猿、様々な怪異や異形の存在も、この蛇神の統治により村には下りず、身を潜めた。
シルヴァ(想像を膨らませるなら、その神が何か困っていて助けて欲しいの?)
ヴァレン CCB<=65 【知識】 (1D100<=65) > 1 > 決定的成功/スペシャル
ヴァレンは年を経た動物を経立と呼ぶこと、そして山人の言い伝えを思い出す。
「山人の言い伝え」
山々の奥に、山人が棲んでいる。
山人は、人に似た姿をしているが、その身は人ならざるものである。
歩き方や、身の丈、髪型、衣服、瞳。
どれを取っても人ではない。といった言い伝えがある。
シルヴァ「その山人は統治により村には下りず、身を潜めたとあるから、危険な存在ではありそうだね」
ヴァレン「あぁ、俺も思う」
シルヴァ CCB<=85 【目星】 (1D100<=85) > 13 > スペシャル
道具置き
小さな笛
手に収まる笛。吹いてみないとどのような音が出るかわからない。シューと短く抜けるような音が鳴る。最初、息がうまく入っていなかったのかと思ったが、違うようだ。人には聞こえづらい音域で、音が出ているのだと感じる。
ヴァレン「さっき見つけた小さな笛は犬笛だな。躾けたり慣らすために使うことができるやつだ」
*
ヴァレン「地図にあった森、渓流どちらから行くか」
シルヴァ「水の確保のため、渓流に行くのはどう? 黒曜も喉が渇いてるかもしれない」
ヴァレン「いいな、そうしよう」
黒曜 「ぶる……」
シルヴァ「これで水分は当分安心だね」
岩に囲まれた川辺には冷ややかで清廉な空気が流れている。見渡していると水が跳ねる音を聞いた。魚がいるのだろうか。
ヴァレン「飯も調達したいな」
ヴァレン「川の中に魚影が見える。浅瀬から入れば掴み取ることができそうだぞ」
冷ややかな水に足を浸す。あたりを探り見ていると、足首にぬる、と何かが触れる。あなたの足の隙間を魚が通りぬけようとしていた。足の間を通り抜けようとした魚に手を伸ばす。掴んで逃げそうになったところで、岩に押し付けて抑える。えらをぐいとつかんで引っ張れば、魚は軽々と持ち上がった。
ヴァレン「簡単にとれた、晩御飯は魚にしよう。山の恵みをありがたくいただこうぜ」
シルヴァ CCB<=70 【薬学】 (1D100<=70) > 1 > 決定的成功/スペシャル
シルヴァ「黒曜のご飯もあるよ、良い場所だね」
黒曜 「♡」
枝葉の間から覗く向こう。岩の上に美しい女が一人、座っていた。横座りになり、艶のある黒く長い髪を梳っている。顔の色は極めて白い。白粉を塗っているのではなく、肌そのものが抜けるように白いのである。
人ではない。人のいるような場所ではないからだ。女性があのような高い岩の上に登れるだろうか。顔立ちの美しい女が不気味に見えた。
女はあなた達に気がついたのか、岩の上からこちらを見る。その瞳は、人ならざる凄みがあったが、発される声は鈴を転がすように美しかった。
女 「…こんな森の奥に、どうしたのですか。…あぁ、迷ってしまわれたのですね。人間の方」
女 「昔は私も人だった。ここに迷い込んでしまった。此処は駄目だ。土の中にまであのお方が染み込んでいる」
シルヴァ「あのお方?」
シルヴァ(ここに居ると人ではなくなってしまうのか)
女 「えぇ……疾く帰りな。あなたはまだ帰れるみたいだから。私は帰り方など分からなかった。それから私は山の男の女になったのです」
女 「私は妻となって子も産んだ。然し産んでも産んでも、夫は子を喰ってしまった。だから私は独りここに」
女は柔和に微笑む。確かに人の形ではあるが、全てが人のそれとは違っていた。帰ろうかと思った時に、女の首がくるりと動いた。
女 「女の匂いがするな」
彼女の目とあなたの目が合う。
女の瞳を見ていると、心の底が揺るがされているような心地になる。全て覗かれているような、暴かれているような心地になる。
シルヴァ「女の匂い?」
女 「いや……アンタが女なのか。事実だろ。違うか」
女は首をもたげる。見透かすようにあなたを見ている。
女 「みんな知ってる。蛇の男の神。似てる匂いがあんたの直ぐ側からする」
女 「アハハ」
女の口が三日月になる。
シルヴァ(何故この女性には帰り方を教えなかったんだろう)
女 「アンタ、マイッタね」
女 「マイられてるね、マイッタ、マイッタ」
女 「ケタケタケタケタケタケタケタケタ」
黒髪の女はケタケタと謂った。笑ったわけではない。ケタケタと音を立てたのである。
ケタケタケタケタケタケタケタケタ。
女 「どうしてあんただけがおかしくなっているんだと思う? どうして隣の男が普通にしているんだと思う?」
女 「何故って─」
ヴァレン「聞くな!シルヴァ」
(女の叫びは無視すべきというヒントであり、同時にヴァレンの死を明かされたくないと思ったセリフ)
ヴァレンの声が響いた。
─女は嗤う。人ならざる声で。
『黒声』 開始
シルヴァ(私が可笑しい? 蛇毒のこと? それなら、ヴァレンが止める理由はなに……。呪いの類だろうか)
ヴァレン「マイッタとは魔入ったってことか。 魔とは自らの弱さ……心の隙間に穴が空いたのであれば、隙間に魔が差す。時間に穴が空いたのなら時間に魔が入る。今、自分の体に魔が入ったなら、さてどうやって外に出そうか……。
そして、彼女の声そのものを止めるなら殺害するしか方法はない……果たして単純に殺していいのか。……って馬もそう思うか?」
黒曜 「ぷる……」
ヴァレン「どうやらそうらしい」
シルヴァ「ヴァレンも黒曜も凄いね」
ヴァレン(どうすればこの声に惑わされないでいれる……)
シルヴァ「何が目的なんだろう。初めは好意的に逃がそうとしてくれた。蛇の神と近くにいたという私のの存在が彼らにとって都合が悪いのか」
黒曜 「CCB<=50 【悟り】 (1D100<=50) > 2 > スペシャル」
黒曜 「…………フン…」
馬は以前の飼い主(既に死んだ僧)が話していた禅語の「渓聲洗耳清」を思い出す。
けいせいみみをあらいてきよし。
渓声とは谷川の音、渓流の音のこと。
谷川の音が流れる音を聞いていると、心が清められるという意味だ。
……流れる音を聞いていると、心が清められる=心の中で整理できれば、悪しきものに囚われずに済むかもしれない
黒曜 「ぷる……」
シルヴァの裾を食み、水の中に連れていく。
ヴァレン「なにか伝えようとしてないか?」
シルヴァ「確かに潜れば音が聞こえなくなる......」
そうしていると自然と水の音が大きくなり、水の音に集中することが出来るだろう。
ヴァレン「なるほど……それだ!」
黒曜 「ぷるる~ん!」
耳を澄ませば、川を流れる水の滔々とした音が聞こえる。迷いを引き起こす声は次第に薄まっていく。体内で滞っていた淀みが流れ出し、渓流のごとき感覚につつまれる。気づけば女の声は止んでいた。誰も居ない岩の上には何かが光っている。
シルヴァ(目の前の存在に対処するのではなく、別の物事を意識することで目を背ける。ある意味生きる上で必要なのかもしれない)
黒曜 「ブルルルルン!」
元気に泳いでいる。
ヴァレン「嬉しそうだな、馬」
シルヴァが無事でよかったね~ワシャワシャとたてがみを撫でる。
黒曜 「べるっぽ! べるっぽ!」
ベロベロと顔を嘗め回す。
ヴァレン「アハハっ!シルヴァの顔中ベタベタだ」
シルヴァは岩の上に登ると、そこには鈴の根付があった。取り上げてみると、チリンと鳴る。清らかな音色だった。鈴の音は悪霊を祓うらしい、とどこかで聞いたことを思い出す。
両者生還
AF:《鈴の根付け》
赤い紐の鈴の根付け。清らかな音色がする。
盲狼
ヴァレン「次に探索出来そうなのは森だな」
焚火などで身体を乾かしてから移動する。霧が廻っているこの場所は、相も変わらず人気がない。前へと進むヴァレンと、隣を歩くあなたの足音だけが聞こえた。背の高い木々がめいめいに生い茂るこの場所では物を探すのも一苦労だろう。
黒曜 「しゅん‥‥」
おほん……霧が廻っているこの場所は、相も変わらず人気がない。前へと進むヴァレンと、隣を歩くあなたの足音、そして愛馬の足音が聞こえた。背の高い木々がめいめいに生い茂るこの場所では物を探すのも一苦労だろう。
黒曜 「にこ!」
人が通れる道を探しながら歩く。進んでいけば、林縁の斜面に山菜が生えているのを見つける。一通り山菜を採ることができる。
黒曜 「CCB<=85 【喜びの蹄の音】 (1D100<=85) > 1 > 決定的成功/スペシャル」
馬は好きなだけ美味しい山菜を見つけることが出来るだろう。
黒曜 「もぐもぐ…」
シルヴァ CCB<=70 【薬学】 (1D100<=70) > 8 > スペシャル
行者大蒜、大葉擬宝珠、独活、多羅の芽、蕨…と、広く知られている山菜である。付着した土を取り払おうとした時、どろりと手に黒いものが伝った。
土から染み出した黒い粘着質の物体が、あなたの手から溢れたのだ。(昨日みた黒い粘着質のものに似ていた)床に落ち、しばらく蠢いた後に何かは板の隙間に溶けて消えていった。
肌を生ぬるい風が撫でた。獣の香り。あなたは気が付く。─こちらを見つめる、幾つもの輝く瞳を。その中で一際大きい、白く濁った、ものを映さぬまなざしを。
『盲狼』 開始
霧の上にそびえる岩々から僅かに影が見えた。一つではない。ふたつ、みっつ、よっつ…十、二十はゆうに超えている御犬の経立。御犬とは、狼のことである。
あなた達の姿を見ると首を傾げてしげしげと眺めた後、体を押し上げるようにして代わる代わる吠え始めた。狼の大群がこちらに向かってくる。吠えながらも跡を追っているようだ。
シルヴァ「折角見つけた笛があるから試しに吹いてみよう。何か犬に記憶があるかもしれないから」
使って狼の足止めをしたり、意思を伝えることはできるかもしれない。しかし、安全に対話ができるかこの状況では予測ができない。ある種の賭けにはなるかもしれないと思うだろう。笛の音が風の中を抜けていく。狼達の耳がぴくりと動いた。途端、彼らの動きが止まる。
同時に、あなたは足先が硬直するような感覚を覚えた。まっすぐにこちらを見る白い目に、足がすくんだからだ。群れの中を割くように、一匹の狼が現れる。毛並みこそ若いものに劣るが、体格は立派であり、理知的であるその姿は筆頭と呼ぶに相応しい。
両の瞳は白く濁っており、彼がめくら狼なのに気付く。しかしその足取りは、目が見えないものとは思えないだろう。あなたの頭に老成した男性の声が聞こえる。
狼 「私達は生きるために狩りをしている。お前たちが生きるためにものを殺し、食らうように」
狼 「一つ選択の権利をやろう。ここで死に、我らに食われるか、その馬の肉を我らに渡すか」
黒曜「ぶる……;;」
黒曜は老狼の前で足を折って命の終わりを待っている。
ヴァレン「くっ……」
ヴァレン CCB<=70 【目星】 (1D100<=70) > 8 > スペシャル
ヴァレン「こいつらも生きるために、何かの肉は食わないといけないだろう。近くの木に赤い印が付いている。(落とし穴の仕掛けのようだ)」
シルヴァ「黒曜……っ魚は魚肉というが肉に入りますか?」
狼 「入るな……それでお前達の飯はどうする?」
シルヴァ「山菜も沢山採れたのです」
狼 「だが、それだけで20体いる我々は足りないだろう」
ヴァレン「シルヴァ……!」
ヴァレンは黒曜の背に乗り、シルヴァの手をとって馬の背に乗せると耳打ちする。
ヴァレン「穴は『狼(いぬ)落とし』だ。狼の被害に苦しんだ人々は狼を捕獲するため狼落としという落とし穴を作った。落ち葉によって隠されているが、直径約6メートルはある。指揮を取っている狼さえ入れれば撒けるかもしれない」
狼落としに誘導するのであれば(落とし穴の機能がわかるのであれば)〈INT*5〉となる。なおこれは、一度しか振れないものとする。
シルヴァ「折角話に応じてくれたの。馬がこの世界に居る。家畜を探すことも出来るんじゃない?」
シルヴァ「それなら、ここには山菜も沢山あるし、狼が食べれるものもあると思う。畑を作れば走り回らなくても飢えを凌げるんじゃないかな。知能があるなら可能かもしれない」
ヴァレン「ここの植物は毒も多い。知識がないものは山菜も手に入らないだろうな」
シルヴァ「今手元にあるのは毒の無いものだから、畑なら種で循環が出来る。今ここでお腹を満たすか、一族を守るために未来を取るのか、……どうかな」
ヴァレン「……交渉するか」
馬をとめて、狼が追いついてくるのを待つ。
狼 「交渉する気になったか……」
シルヴァ「たんぱく質が必要なら狼でも魚が採れる罠を作るよ」
狼 「ふむ……罠を作る方法も教えると?」
狼 「川での狩りも器用さが必要だろう」
シルヴァ「人も知識で増えていった。知識があれば貴方達も平和に生きていけるようになるでしょう」
20匹の狼が周りをグルグルと囲む。
狼 「直近はその罠で生きながらえ、長期的には畑をしろ、ということだな」
狼 「 俺達が本当に生きていけるか、確証はあるのか?」
シルヴァ「貴方がたは鼻も利く。育つまでは持っている山菜の香りを覚えれば見つけられる。魚を雪で冷凍すれば、少しの間冬をしのげるかもしれない」
狼 「がるるる……」
シルヴァ「私は出来ると思っている。出来るかできないかはあなた達次第」
狼 「そうか、ではおまえ達を襲わない代わりに、その知恵を貰うぞ」
黒曜 「ぷる♪ ぷる♪ ぷるる~ん!」
シルヴァは狼に手伝ってもらいながら、大きな畑に犬が食べられる野菜の種を埋めた。近くの川には罠を設置した。
ヴァレン「本当にお人よしだな」
シルヴァ「……今私たちを食べたところで一時の飢えを凌げるかもしれない。でも、今困っていたようにまた困ってしまうと思ったから」
狼「ありがとう、これは信頼の証だ。いつか役に立つ時がくるだろう」
AF:《白い瑪瑙》
美しい瑪瑙の玉。持っていると落ち着く。
シルヴァ「ごめんね、食事が減っちゃった」
ヴァレン「それは全然いいんだ」
ヴァレン(俺が何年もかけて、そうありたいと思っていた姿)
ヴァレン(シルヴァが一番穢れのない存在なのかもな)
両者生還
空蝉
家に帰る。二人で協力すれば、少々勝手は違うものの風呂の支度をし、料理を作ることができる。台所にある包丁は手入れがされているもので、問題なく使える。
ヴァレン「汁を多めにしたから、腹いっぱいになるぞ!」
シルヴァ「いいねぇ」
二人で温かい汁をすすった後、身体が冷えているシルヴァは今日も風呂へ向かうだろう。木の窓の隙間から流れ込む空気は冷たく、肺と腹に淀みが溜まっていくような心地になる。外を覗くと、昨晩見た山を飲み込む異形が絶え間なく蠢いていた。風呂から出ようとした際に、あなたの後ろから声が聞こえた。
『カガミヲミロ』
振り向いても何もない。木格子窓の隙間から流れ込む冷たい風が、そう聞かせたのだろうか。寝具の中に蛇のウロコが落ちていることに気がつく。ヴァレンは何も言わずに風呂に入ったあと、和室に戻ってくる。
その間妙に頭が冷えたあなたは、眠ろうとしても目が冴えていくだろう。外から入り込む明かりのせいかもしれない。ヴァレンの身体はとくに、おかしいところはない。代わりに近くに鏡があるのを見つけた。
シルヴァ(鏡では様子が変わっているのかもしれない)
鏡の中を見れば、彼の体の表面がめくれているのだった。薄い鱗に覆われた皮が不完全に剥けている。
シルヴァ「ヴァレン、身体は痛くない?」
とたんにヴァレンの調子が悪くなったのか、布団へ倒れ込む。
シルヴァ「ヴァレン……!」
彼の額からは汗がとめどなく流れ、体は震えている。ヴァレンに触れれば熱はあなたの中へと入っていく。ひどく熱いはずなのに、あなたの内側に熱はとどまらず、何処かへと消えていく。
夜闇に消えるはうつろの渇き。
『空蝉』
熱に浮かされるヴァレンは何かを訴えようとするが、口は空気を求めて開くだけで言葉を発することはない。ただ苦しそうに、うわ言を繰り返す。
シルヴァ CCB<=80 【応急手当】 (1D100<=80) > 6 > スペシャル
シルヴァが応急手当をしようと触れると、途端に彼は抵抗した。あなたに汗を拭われている時は落ち着いていた様子からすると、皮膚感覚や状況の変化に敏感なのではないかと思う。
そしてヴァレン に触れて見ると、鏡の中にあった剥がれかけの皮膚に現実で透明なナニカに触れることが出来る。
シルヴァ(試しに脱皮を手伝おう)
首から慎重に皮膚をめくっていく。蛇の鱗をもつそれはゆっくりと剥がれていく。たまに痛みがあるのか、ヴァレンはあなたの腕にしがみついた。
暫くしてやっと上半身の皮を剥くことができる。彼はぐったりとしており、汗も止まらない。そのままぬるぬると、腰から足までの皮を剥がしていく。
ヴァレンの目は覚めることがないが、稀に震え、恐れるような声を上げる。剥がれた不可視の皮は、脱げきると白い着物の形へと変わる。
ヴァレンは先程と比べて、息は落ち着いている。汗は止まり、うわ言も止む。白い着物を手にとってみる。触ってみても、普通の布であることが分かる。
ヴァレン「……」
シルヴァはヴァレンの額の汗をタオルで拭った。暫くすればヴァレンの目が突然開いた。彼は反射的にあなたの手を掴み、床に押し倒す。その目を見ていると、体が動かなくなる。彼の目は蛇だ。彼は着物の上からあなたの腹をまさぐる。
ヴァレン「欲しい」
彼が抵抗できないあなたの着物を脱がしていく。あなたの首から、肩、胸、腹、脚へと手が滑る。あなたの体表を蛇が泳いでいる。体内を無理矢理開かれているようだった。何かに干渉されている。
『空腹身(からばらみ)』
思考する(知識ロール)以外の行動を一回するごとにシルヴァの腹の中の生き物が育っていく。彼の異変を止める行動を行う、または彼の求めるものに答え、尚且つ与えるのであればこの事態は収まるだろう。
ヴァレン「欲しい……欲しい……シルヴァ、くれないか」
シルヴァ「何が欲しいの?」
のどを何かが迫り上がる。反射的に口元を抑えようとするが、手は動かない。吐くこともない。自分でない何かが自分の体のなかにいる。
シルヴァ「愛……?」
彼は黙る。当たっているようだ。
ヤクザの子
路地裏に佇む孤独な少年、ヴァレン。彼の育った世界は、硬く冷たい石畳に覆われ、無慈悲な暗闇が支配していた。家族の温もりや愛情などという概念は、彼にとっては遠い夢の中の話だった。
拾って貰った人からの唯一の教えは、「泣くな、ヤクザが泣くことは無い」という言葉だった。彼は涙を拭って貰ったことなどなかった。そして、いつしか涙を流すことすら忘れてしまった。
夜
シルヴァは蛇の瞳による呪いにも負けない強い意志を持って、ヴァレンを優しく布団の上に寝させる。
ヴァレン「ムリするな……」
シルヴァ「無理なんてしてないよ。苦しいんでしょう。どうしたら良いか言って、全部叶えるから」
(言えない契約と知らないので、遠慮して何か隠していると感じている)
シルヴァは静かに愛おしそうに笑って、優しく抱きしめる。まるで存在を確かめるように。ヴァレンの瞳から似合わない涙が流れる。
シルヴァ「大丈夫、……私が守るからね」
そう言いながら、慈しむように頭を撫でる。
ヴァレン「今日も……沢山助けられたな」
シルヴァ「一緒に沢山考えたから、助け合った、でしょ」
シルヴァ「私はヴァレンと出会えて嬉しいの。だから沢山頼って欲しい」
ヴァレン「俺も、あえて嬉しい」
片腕で顔を覆っているが、窓からの光で涙が流れているのが分かる。感情が溢れているんだろう。
シルヴァ(あまり見れない姿が見れて嬉しい。って言ったら、怒るかな )
落ち着くか分からないけれど、背中をさする。
シルヴァ「ヴァレン、愛してるよ。誰よりも大切なの」
ヴァレン「こうしてるの気持ちいいな、……好きだ」
体温を逃さないかのように、二人は身体をぴったりとくっつけて眠った。
▶ 秘匿(ここをクリック ※ネタバレ)
この時、ヴァレンは既に死んでいるのでシルヴァとこうして温かい夜を過ごせるのも最後だと思っている。
これまでのシルヴァの行動に尊敬や愛しさが溢れ、愛しているという気持ちでいっぱいだが、それを伝えると分かれた時に辛い思いをさせてしまうのではないかと考えていた。それは逃げなのかもしれない。そのため、「気持ちいい」という言葉に「好き」を紛れさせることにとどめた。
ニコ
目が覚める。朝が来たようだ。ヴァレンはまだ眠っている。それより、なにかが自分の前にいた。白い着物を着ている少年が寝ている。少年はあなたに似ているが、目元はヴァレンに似ていると感じる。少年がぱち、と目が開く。あなたをじ…と見つめた。彼はあなたの手をとると、指でくりくりなぞり始める。
『おはよう』
シル「おはよう」
シル「私はシルヴァ。名前を教えてくれる?」
『ない』
『うまれたばかりだから』
手のひらに言葉を重ねる。
シル「じゃあ…ニコはどうかな」
少年、ニコは嬉しそうに笑う。
ニコ『おかあさん うれしい』
ニコ『なまえ ありがとう』
シルヴァも嬉しそうに笑い、昨日の残った食材で朝ごはんを作る。
ニコ『ぼくも てつだうね』
シル「うん、助かる。じゃあ、この野菜を洗ってくれる?」
ニコはバタバタと台所を駆け回り、ジャバジャバと野菜を洗う。
シル(魔女の血が流れているのなら長寿。同じ種族が住んで居る場所を探さないとな……)
洗い終わった後は屈託のない笑顔で頭をすりよせ、撫でて貰おうとするだろう。
シル「ニコありがとう」
その様子を察して、いつくしむように頭を撫でる。シルヴァは手際よく質素な料理を用意して食卓に並べた。
シル(生まれたばかりで言葉が話せる。この世界の何かしらの影響で生まれた存在かもしれない)
しかし彼が自身を親と認識している以上、親として接するだろう。
ヴァ「ん......今日は早起きだな」
ヴァ「あぁ、朝ごはんを作ってくれたのか。ありがとう」
ヴァ「この子供は……俺達の子か……?」
ニコはシルヴァの影に隠れる。そして、シルヴァの掌に『おとうさんは ふたり』とかく。
ニコ『このひとはおとうさんじゃない』
そう言ってヴァレンを指さす。
ニコ『ひとりはおおきい』
ニコ『ひとりはかみさま』
ニコ『このやまにいる。ずっと』
ヴァ「喋れないのか……?」
ニコはコクンと頷く。
ニコ『ひとりはおおきくてつよい。けれど食べるだけ』
ニコ『もうひとりはかみさま。小さかったあのおとうさんを大きくした。けれど今はどうすることもできない』
シル「色んな事を知っているんだね」
ニコ『うん。おかあさんはかえりたい?』
シル「ニコはずっとこの世界に居るの?」
ニコ『ぼくは おかあさんがいいなら 近くにいたいよ』
シル「私はきっとこの世界の役割を終えないと帰れない。神様の願いを叶える必要があるのかもしれない。ずっと一緒に居たいなら、同じ世界に帰るのも良いね」
ニコ『うん!……あ、ここのでんしょうは読んだ?』
*
家の裏手にある蔵。重い扉を開けば、書物や道具がごたごたと置かれている。少年が言っているものがあるか確認ができる。和綴じでつくりこそ古いが、綺麗な状態の本を見つける。
(常陸国風土記)
○夜刀神(やとがみ)
蛇のことを夜刀の神という。身の形は蛇であり、頭に角がある。その神の姿を見ようものなら、家は滅ぼされ、子孫は絶える。普段は郡家の傍らの野に群れかたまって住んでいる。土地の人々が開墾してあらたに田を作った時、夜刀の神は群れをなし互いに仲間を引き連れてことごとくやって来た。そして妨害をし、田を作り耕させなかった。指導者は蛇たちを打ち殺し追い払った。そこで、山の登り口に行き、標の大きな杖を境界の堀に立てて、「ここから上は神の土地とすることをきき入れてやろう。だがここから下は断じて人の田とするのだ」
「今後は、私が神の祭祀者となって、代々永く敬い祭ろう。どうか祟ることのないよう、恨んではならぬ」と、夜刀の神に宣告した。こうして指導者の子孫が、互いに受け継いでまつりごとを行うことになった。天の下を治める天皇のみの世になって、また新たな指導者がやって来た。
指導者は谷を占拠して、池の堤を築かせたが、池のほとりにいた蛇神は、いつまでもそこに留まっていた。これに怒った指導者は使役している村人たちに、
「目に見える一切の物は、魚でも虫でも、恐れたり愚図愚図しないでみなことごとく打ち殺せ」と命じた。その言葉がまさに終わるや否や、神蛇は遠ざかり隠れてしまった。
○蛇神の子
兄の名はヌカ彦、妹の名はヌカ姫と言う兄妹がいた。妹が部屋に居たとき、名前を名乗らず、求婚する男が居た。男は、常に夜しか来なかった。ヌカ姫と男は夫婦となって、一夜で懐妊した。生み月になって、妹は小さな蛇を生んだ。蛇は人間の言葉が分かるが、昼間は一切話さない。しかし、夜になると子は母と家族のように話した。妹は驚き、心中に神の子であろうと考えて、清浄な杯に蛇を盛って、祭壇を設けて安置した。一夜の間に、蛇は杯の中に満ちた。
さらに大きな瓫(かめ)に換えると、蛇は成長して瓫一杯の大きさになった。そこで 子供の蛇に「お前は神の子である。私には育てることが出来ない。父の居るところへ行きなさい」と言った。
子は悲しんで泣き、顔を拭って、「謹んで母上のお言葉をうけたまわりましょう。しかし、この身一つであるわたしがたった独りで行くのは、辛く、寂しいです。どうか、私に付き添わせるものを一人ください」と答えた。ヌカ姫は「我が家にいるのは母と伯父二人のみであるから、付き添わせてあげられる者はいない」と言った。
この蛇は恨んで、ものも言わず、別れのときに、怒りに耐えられなくなった。
雷の力で伯父を殺して天に登ろうとしたのである。それに驚いた母が瓫を子蛇に投げつけたので 子は天に登ることが出来なかった。それで、この峯に留まったのである。その子孫は社を立てて祭礼をし、現在に至るまで続いている。
○ダイダラボッチ
むかし、山に巨人がいた。そのものは山を動かしたり、川や湖を作った。腹が減った時は遠くから食べ物をとって暮らしていたそうだ。
ヴァ「この話は日本の地誌「常陸国風土記」に残っているものか……。常陸国(ひたちのくに)、現在の茨城県に相当する場所の歴史だ。今、自分がいる場所は実在する土地なのかもしれないな」
シル「お父さんはこの方々かな」
ニコ『夜刀神はかみさまのお父さん、ダイダラボッチはおおきいお父さん』
シル「何だか日本と縁があるね」
ヴァ「本当だな。この間、日本に遊びに行った時に目をつけられてたのか?」
ニコ『ものはすべてあるべきようにある。そしてたしゃがみて、きいて、かいで、あじわって、ふれて、あらわれる。ゲンジョウする』
ニコ『きよめたみは まもられる』
ニコ『まだおわってないなら ぼくもついていく』
シル「ニコは私達に帰りたいか聞いたけど、何か知っているの?」
ニコ「尾根か洞窟に向かうといいかも」
ニコ「尾根はたぶん、この山がどんなばしょかわかる」
ニコ「洞窟はかみさまのおとうさんがいる」
シル「じゃあどんな場所か分かってから会いに行こうか」
ニコ「そうしよう!」
黒曜 「ぶるる(ニコを乗せて運ぶ)」
感謝を伝える様に首元へニコが縋り付く。
乳白色の霧が森に満ちている。尾根へと続く道はあるのだろうが、何分視界が悪いため、方向感覚を失わないようにしないといけないだろう。道を間違わずに進める。登っていくと次第に、周囲が紫がかっていく。
霧の海の中に見えるのは、藤の棚だった。靄が重なり合う中、紫色の花が波打っている。藤は蔓科であるから、その花は上へ上へと登っていくのだろう。山藤を抜け、谷と谷に挟まれた頂点、尾根に行き着く。霧が谷の中に渦を巻いている。それよりも谷の先、更に向こう側は、黒く断たれていた。
この山の先にあるのは無だ。あなた達は山に閉じ込められていた。進むことができないのならば、戻るしかない。あなた達は引き返す。少年は茸や山菜を取りつつも山を下っていく。
馬の足音、自分の足音、隣にヴァレンの足音。ふと、…隣にいた音が消える。
勘違いだろうか、と手を伸ばす。霧が、先ほどよりも濃くなっている。
厚い霧のとばりはあなたの周囲を全て白く飲み込んだ。凍えるような寒さが身を包む。
その中で不気味な遠吠えと唸り声を聞く。体を音のない風が撫でた。
霊界の風。身震いするような悲しみの叫び。どこか遠くに木霊する声。
この空間に不釣合いな甘い芳香。意識が霞んでしまいそうだった。
─頬を撫でるは異界の薫。
『幽香』
歩みを止める。周囲には誰も、いない。小さく声をあげてみる。その時、薄暗闇から影が伸びた。腕、であった。人にも近い影は、人を遥かに超える太さで、あなたはそれを反射的に避ける。あの腕に触れられていたら、どうなったのであろうか。背中に冷たいものが走った。
歩いても歩いても、そこには厚い霧と藤の香。
シル「はぐれちゃった。一度迷い家に帰って待とうかな」
シル(いや、まだ近くにいるのかも……、とりあえず木に登ってみよう)
山を登ると、雲の上のような森から遠くに家が見える。迷い家の方向は分かるだろう(ナビゲート+10)
ニコ「お母さん、大丈夫?」
ニコ「昼は話せないはずなんだけど…ここはとうさんのかおりがする」
ニコ「あの人とははぐれちゃったの?」
シル「あの人はヴァレンって言うんだ」
ニコ「ヴァレンさん……」
あなた達が周囲を見渡していると、向こうから影が近づいてくる。手元でさえ霧に浸されているこの場所では、すぐ側に来るまで、誰なのかわからない。少年は影を見て、一度動きを止めてから、あなたの手を強く握った。
── こちらに来たのは、ヴァレンだった。
ヴァ「……ここに居たのか。良かった」
ヴァ「霧のせいでだいぶ視界が悪いな」
ヴァ「また散り散りになったら困る。はぐれないようにしよう」
彼はあなたと少年の間に入り、手を取る。少年はおとなしく、あなたから手を離してヴァレンの手を取った。
ヴァ「シルヴァ、ぼんやりしているとまた迷うぞ」
彼は行こう、と促す。あまり迷わずに、霧の中を切るように進んでいく。
シル「あなたは誰?」
ヴァ「見た目の通りだ。お前が信じるものだよ」
彼の着物の色が、あなたと居た時よりも濃い色に見える。濃い藤の色…気のせいだろうか。藤色の服は「藤衣(ふじごろも)」と呼ばれる。
麻布で作った喪服のことである。藤の花の紫色が、喪服の色に似ていたことからこう呼ばれた。濃い藤の香りが彼からすることに気が付く。ここにいるヴァレン は、ヴァレン本人でなく、思う通り人智を超えた何かだ。度重なる冒険の経験から、彼は神のように感じる。
彼に敵意はなく、帰り道を案内しようとしているのは真実だと感じる。たしかにヴァレンと一緒にいる時は、魔の手もやってこない。
シル「(言えない理由があるのかもしれない)……ごめんなさい、行きましょうか」
霧中を歩く。あなたの手を引く彼の足取りは確かで、感じる熱もどこか懐かしいものがあった。しばらく歩むと、彼は口を開く。
ヴァ「このまま真っ直ぐ進め」
彼はあなたと少年の手を離す。
ヴァ「自分は行かない。案内するのはここまでだ」
少年と二人、歩みを進める。風に吹かれ、藤の花が舞い散る。見上げれば、ホオノキに絡まったヤマフジが滝のように垂れ下がって咲いていた。爽やかな香りは一面に漂っている。ヴァレンはそこに立っていた。霧は薄まっている。あの影の姿はもう何処にもない。彼はあなた達をぱっと振り返る。
ヴァ「…! 戻ったのか。…帰ってきて安心した。突然霧が濃くなって、お前と少年が消えたんだ」
シル「心配させてごめんなさい、ヴァレンも無事でよかった」
シルヴァの決意
地図を見ると、川の上流に洞窟がある。そこに向かってまた、薄霧の中で歩みを進める。川の上流、そこに漆を塗ったような黒い穴が空いている。洞窟の周りには紙垂のついた注連縄が巡らされている。
あなたと少年は洞窟の中に一歩踏み出した。バチリ、と背後から音がする。後ろを向くと、ヴァレンが洞窟の前で立ち止まっていた。彼の手には裂傷のような痕が走っている。
ヴァ「……弾かれた。お前達で行けということだろう」
ヴァ「気を付けろよ。俺はここで待っている」
黒曜「ぷる?」
ヴァ「お前もここにいてくれるのか?」
黒曜「どぅふふん……」
馬を寝転がせ、そこにヴァレンも寄りかかる。
シル「分かった、何かあったら呼んでね」
あなたと少年は二人で、この洞窟を進むことになる。暗がりの中手を繋ぎ、歩いて行く。
奥に向かうにつれ分かる。ここは人の来る場所ではない。生き物はいない。しかし、目に見えない生物の匂いと音がする。空気のなかをそこらじゅうに這い回っている。冷えた空気が肌を滑る。見られている。
手元の光が、かろうじて進む道を照らしていた。そんな恐ろしい場所なのに、以前から知っている気がする。何処か遠い昔にずっと知っていた、そんな気がするのだ。
ニコ「空気が違うでしょ」
隣の少年が呟いた声で現実に意識が戻ってくる。
シル「そうだね」
ニコ「ここはレイキが濃いから喋れるよ。とうさんの住む場所はそうなんだ」
シル「霊気?」
ニコ「うん。あの縄はケガレを祓う。ここは神聖なものしか来れない場所」
ニコ「ひとは大体フジョウだけど、あの人はどうしたってここには来れないだろうね」
シル「どうしたって?」
ニコ「……うん」
少年は言おうとして、止める。
ニコ「……ぼくはアワイの存在だから、あんまり影響を及ぼしちゃいけないんだった」
ニコ「はっきりしたり、どっちかに寄っちゃいけないの。ヒトとカミと、ケモノの間だから」
シル「魔女とカミとケモノ?」
ニコ「そうだね」
ニコがシルヴァの手をとる。
シル「この世界が終わったら自分の意志で決めることが出来ると良いね。自由に」
シル「それを望んでいるかどうか分からないけど」
ニコ「うん……ありがとう、母さん」
シルヴァは軽々とニコを持ち上げておんぶした。
ニコ「キャッキャ!」
反響する音を聞きながら進むと、広い場所に出る。高い岩の上で、何かが蠢いた。
甲の薬は乙の毒。全て飲み込んで。
『蛇莓』
少年は岩の上へと呼びかける。
ニコ「とうさん」
その存在は岩の上で首をもたげた。
蛇神「やっと来たか。何処まで真実に辿り着いた? …見る限り、滞りなく進んでいるようだな」
シル「夢の中で会ったのは貴方?」
蛇神「そうだな……」
彼はそう言って、あなたに一冊、本を投げる。文字を読もうとしても、この暗がりでは難しかった。
蛇神「蛇に噛まれる夢を見ただろう。だからお前の首には痕がある。未練の跡が」
シル「未練?」
蛇神「未練……あれに知能はない。しかし、成長に比例して狩りをするようになった。子供もおおかた寄せ餌として生んだんだろう」
蛇神「あれはあれだ。見た通り。全てのものの熱を喰らう、すべての生命の源。夜間に本体を見たんじゃないか」
蛇神「…もはやあれは俺の記憶の熱量さえも食らっている」
シル「……何か困って居るのかな」
蛇神は静かに思考する。シルヴァ、神と人と獣の存在を自由を望む。知能の無い存在を助けようとする。その姿や魂の熱は、失われている記憶の中でかすかに覚えている彼女と似ていた。
蛇神「アヤツはもう食べることだけを生業としている。この山はほとんどダイダラノッチだ、消化され続けている。俺の命は長く持たないだろう。無論、お前も」
蛇神「お前は余計なことをせず、このまま六根を清め、この山を降りよ」
蛇神「神の地に踏み入らず。神に触れず。神を侵さず」
蛇神「人にできないことはするな。破れば雷が降る。神の怒りに触れるだろう」
蛇神「人の力では太刀打ちできない相手だ」
彼は小さな薬瓶を取り出す。中には赤紫の液体が揺れていた。放られた瓶は落ちることなく、あなたの手に自然と収まる。
蛇神「体を再構築する薬だ。これを飲めば、溶かされた骨も、失った体組成も回復する。副作用はない」
シル(身体が溶けているのなら私だけじゃないはず……)
シル「これは飲みまわしても大丈夫?」
蛇神「それはお前専用の薬だ」
シル「ヴァレンがここに絶対に来れないのは貴方が理由?」
蛇神「アヤツは一度、契約をしている……ここには来れない。これ以上は言えない」
その言葉に、シルヴァは確信する。
シル(契約しているから普段と違っていたの。そして、私を守ろうとする中で、何処か諦めがあるのは、自身は手遅れなんだろう)
シル(この瓶は来た時に1本空いていた。ヴァレンが使用したもの)
暫しの静寂の中、シルヴァは口を開く。その声は、瞳には決意を感じさせる。
シル「ヴァレンや他の人間が無念にも消化されてしまいましたが、助ける方法の知恵を貸してくれませんか。ダイダラボッチがいなくなれば、貴方もこれ以上喰われることが無くなるでしょう」
シル「普通に戦ってもまず勝てる相手ではないことは分かっています。でも、それしかもう方法はありません」
蛇神「ふむ……」
シル「勿論このまま息絶えて終わらせても良いのですが、他にも同じような人間が出てしまうでしょう」
蛇神「消化が終われば、魂は永遠にこの山に囚われる、それでもか?」
シル「そしたら、私は彼と永遠に一緒ね」
シルは事もなげに笑った。止めることは出来ないそんな風に思わせる笑顔だった。
蛇神「ならば、お前に託すとしよう。対峙するなら死ぬかも知れないぞ。この刀で討つといい」
シル「その時はニコを山の下に降ろして」
シル「……ありがとう、ダイダラボッチを鎮めてきます」
シル(きっと、それが答え)
目の前にポトリと刀が落とされる。
蛇神「この刀は、相手を正しく殺すために、同じくらいの負荷を使う人にも掛けるんだ」
蛇神は心のどこかで、自分を止めてくれる存在を求めていた。
蛇神「ここに来たければ、また来ればいい。拒みやしない」
シル「貴方が願うなら、種族を越えた平和な世界で」
懐かしい記憶を思い出す。失われ続ける記憶が蘇る。助けてくれた小さい子供の名は「シルヴァ」だった。
蛇神「俺はお前達の未来を見守るとしよう……お前達が選んだ未来をな……」
男はあなたを一瞥して、また眠りに就く。その顔は何処か穏やかだった。
引き返し、彼の眠る岩の横を通り過ぎて、入り口へと歩む。行きは長く感じたこの道が、帰りはやけに短く思えた。注連縄を超えて、外へと戻る。ヴァレンは立って、あなた達を待っていた。
ヴァ「……何もなかったか」
ヴァ「良かった。暗くなってしまったし、早く戻った方がいいだろうな」
帰りの道を歩いていく。明かりのない森の中では、行灯の明かりが頼りだった。川の側を歩いていけば、小さな光が舞っているのが視える。水面の上を、蛍が泳いでいるのだった。光の跡が絹のように揺らいで、美しい。
ヴァ「……あと少しだな」
それを見たヴァレンが言った。
ニコ「おなかへった」
二人の間にニコが割り込む。家の前へと辿り着いていた。朧に霞んだ月の光が、桜を照らしている。喋ったことに驚くヴァレンをよそに、少年はあなたの腕を取って嬉しそうな足取りで家の中へと入っていく。
ニコ「ごはんにしよ」
シルヴァは見つけた山菜を調理していく。子供も好きそうな天ぷらにする。ヴァレンは以前バイキングでとんでもない盛り付けしていたなと、思い出して一人微笑んだ。
シル「はい、ご飯だよ」
夕食の支度が終わり、全員が集まる。少年は行儀よく、お膳の前でちょこんと正座をする。手を合わせた少年は、「いただきます!」と声を上げてから食べ始めた。「とってもおいしいよ」と嬉しそうにあなたに伝える。
その様子を見ていたヴァレンは「……喋れたんだな」と、驚いた顔をした。確かにと思い出す。あなたの前だと話す事はあったが、少年がヴァレンの前で話したのはこれが初めてだった。
ニコ「まあね」
と少年は意味ありげな笑みで返した後に、和え物を摘んで食べる。食後の片付けが終わった後に少年が「おふろはいろ」と言ってくる。どうやらあなたと一緒に入りたいらしい。
ヴァ「そういえば本読めるかって言ってたな、帰り道」
シル「うん、ニコなら読めるかもしれないと思ったの」
あなたが本を読んでいると、少年が覗き込んでくる。
ニコ「祝詞だ」
ニコ「知ってるよ。これは正しく神と近づく為の言葉なんだ」
ニコ「呼ぶときにも。帰すときにも重要なの」
ニコ「これはね、正しい言葉なんてほんとはなくて」
ニコ「形式を作って、奉上する、または帰すって気持ちが大事なの」
ニコ「だからいつの時代でも、どんな言葉でも構わない」
ニコ「ほんとうにひつようなのは神を呼んだり、帰したりする心の力なの」
シル「そうなんだ、じゃあお風呂に入ろっか」
ニコ「うん!」
手近な布を探し、着替えを準備して脱いだ服を洗ってから干す。そして温かな風呂に入った。少年はぱっと顔を輝かせて喜ぶ。少年はちょっといたずらっぽく、はちきれんばかりに笑う。そしてあなたの横をくるくると回った。
シル「ほら、ニコも洗うよ」
機嫌をよくしながらお風呂椅子に座る。柔らかな髪を丁寧に洗っていく。やがて全身もれなく艶々となった。ワントーン明るくなったようにさえ思える。
シル「更に白くなったね」
ニコ「えへへ」
ニコ「今度は僕が洗ってあげる」
シル「ううん、自分で洗うから大丈夫。お風呂に浸かって温まって」
ニコ「えーわかった」
ふとすれば、風が頬を撫でる。木格子窓の外の冷気、この数日間感じ続けていた怖気。あぁ、あれがまた来たのだ。見ずにも視える。外の者が。山が動いている。山が呼吸をしている。拍動が聞こえる。腹が、肺が、気管が、冷やされる。
ニコ「外を視ないで」
ニコ「ぼくのこと、見てて」
シル(遠くに居てもこの感覚……、近づいたら大変そう)
少年の額が、三日月に光る。
ニコ「ちょっと呼ばれてるから行かなきゃ」
ニコ「安心して。朝には戻ってくるよ」
ニコ「ちゃんと待っててね」
少年はあなたに微笑みかける。人の姿だ。人の姿をしているのだが、人ではなかった。彼は身軽に窓に飛ぶ。人が通り抜けられないような、木格子の隙間を、通り抜けた。湯船にはあなたが一人、残された。
シルヴァ(知能が無いといっていたから、神蛇に呼ばれたのかな)
窓の外には大きな白い蛇が谷間を進んで行くのが見える。
風呂から出た後、少年が消えたのを不審に思ったヴァレンが「あの子は?」とあなたに聞く。
シルヴァ「蛇神に呼ばれたんだと思う。朝には帰ってくると言っていってたよ」
ヴァレン「なら待ってればいいな。朝に少年が帰ったらよろしく言っておいてくれ」
シルヴァ(よろしく言っておいてくれ……)
シルヴァ(……きっとヴァレンの時間はもう)
シルヴァ「分かったわ」
床につけばうつらうつらと眠気がやって来るだろう。
またヴァレンと会えますように。シルヴァは生まれて初めて神様に祈った。
ヴァレン「神と同じ清らかな心で願うならば、親である神も、兄弟である大自然の万物も皆聞き入れてくださり、願い事をかなえてくださる」
*
深夜、苦しい。息が幾度も浅くなり、深くなってを繰り返す。鈴虫の音が聞こえる。早くここから遠のかなければ。その気持ちが足先に伝わって、計らずも宙に浮いた。足を振り出せば人の肩ほどの高さまで浮き上がり、それから次第に下降していく。
落ちる前にまた一歩振り出す。
すると体はまた跳ねるように上昇した。
何度も言い難い心地よさだった。
山を越える、霧ははるかに。
夜風が気持ち良い。
あなたは門を潜る。
見渡す限り紅色の芥子の花が咲き満ちている。
果ては見えない。
ますます浮ついた心地になる。
『花筏』
道はまだ伸びている。なおも進む。花の道が続く。見渡しても地平はない。花。
芥子の花をまじまじと見ることなど、今までなかった。紙で造られた椀のような形が、一面で揺らいでいる。その花の中に、人影が立っていた。
ヴァレン「……シルヴァ?」
驚いた、戸惑ったような顔でヴァレンが立っていた。
ヴァレン「どうしてここにいるんだ。薬を貰ったのか。ちゃんと飲んだか?」
ヴァレン「飲んでないなら、帰ったら飲めよ。そしたら帰っても問題ないから」
シルヴァ「うん」
二人の間の沈黙を遮るように、ヴァレンは話を続ける。口が上手いこの人を自分は愛していた。
ヴァレン「一度ここの説明をしないといけないな」
ヴァレン「ここは山の神の腹の中だ、お前の命の火はまだ燃えている」
ヴァレン「だから帰る事ができる、俺の火は消えた。共に帰る事はできない」
ヴァレン「隠していて悪かった」
シルヴァ「別に良いの」
シルヴァは静かに聞いていた。直前まで泣いていたような濡れた目、そして一瞬の嬉しそうな顔と、すぐ心配な表情に変わる、ヴァレンに愛しさを感じながら。
会えて嬉しかった? と聞いたら、きっと彼を困らせてしまうだろう。
ヴァレン「……最初、俺はお前より早くこの山に来た。そしてこの山自体が人をおびき寄せて、その熱を喰らう生き物だと知った」
ヴァレン「俺の熱は全て奪われた。残ったのは空になった体だ。お前はまだ喰われている途中だ。体さえ清めれば無事に山を下りる事ができる。俺はそれを見守る気で」
シルヴァは普段見れない弱弱しい彼を抱きしめた。ヴァレンが離そうとしても、離さない。
シルヴァ「……ダイダラボッチを鎮めてくる」
ヴァレン「……」
ヴァレンはそんなこと出来るわけがない、なんて言えなかった。頭が、記憶が、心が理解している。世界のために、誰かのために……自分のために。シルヴァが行動する姿を、ずっと側で見てきたから。
ヴァレン「シルヴァ、この場所に囚われないようにするには振り返らずにまっすぐ帰ることだ」
ヴァレン「……できるな?」
シルヴァ「うん、分かった」
あなたは歩く。花が揺れている。人は居ない。後ろから馴染みのある声が聞こえる。あなたを呼ぶ声だ。進みますか。振り向きますか。
ヴァレン「シルヴァ」
その声にも振り向かなかった。
シルヴァ「ヴァレン、待っててね」
ダイダラボッチを鎮めたら、これから食べられるであろう人を救える。でも、二人が会えるのは最後だ。最後の筈だ。だから、ヴァレンはその言葉の意味を理解できなかった。それでも、その言葉を信じた。
ヴァレン「……待ってる」
誰にも聞こえないような小さな声は風の音でかき消される。
「モッテケ モッテケ」
「ノッテケ ノッテケ」
「モッテケ モッテケ」
「ノッテケ ノッテケ」
風の声が聞こえる。
回り灯籠が回る。ガラガラガラガラ
人が見える。懐かしい人が。
声が聞こえる。懐かしい声が。
匂いがする。あの人の匂いが。
味がする。あの人の味が。
体は記憶する。あの人を。
覚えている。あの人を。
風が煩い。
風が。風が。
全てを奪い去っていく。
風が。
終焉
目を開く。あなたは布団の中にいる。隣の布団には誰も、いない。あなたを見下ろす小さな影がある。少年があなたを見ている。
ニコ「おはよう。……帰ってこれたんだね。良かった」
少年はあなたの首に縋り付く。
シル「ニコ、先に帰るか、一緒に最後まで残るか決めて」
ニコ「ぼくは……」
シルヴァの手を握る。
ニコ「お母さんの傍にいるよ」
シル「分かったわ。私、ダイダラボッチは知恵や意思があれば、蛇神とも暮らしていけると思うの」
ニコ「大きなお父さんは最初から知恵がなくて、今あるのは狩りの本能だけ。知恵を与えると言っても、動物に知恵を与えようとしているようなものなのか、虫に知恵を与えようとしているものなのか、植物に知恵を与えようとしていることなのか、それはやってみないと分からない」
ニコ「大きなお父さんは狩りをする能力が今ある状態、そして消化したものから呼び水として子供を作る。狩りをする知性は増えたって感じだね」
シル「逸話のダイダラボッチのように、山を動かしたり、川や湖を作ったり、人と協力すれば生きていけるかもしれない。神様であるならば信仰によっても生命力になるのかもしれない」
シル「日本人が遠い昔から生活を営んでいく中で、身の回りのありとあらゆるものに対して神の存在を信じ、八百万の神様が生まれたと聞いたことがある」
シル「神と同じ清らかな心で願うならば、親である神も、兄弟である大自然の万物も皆聞き入れてくださり、願い事をかなえる」
シルヴァ「私を呼ぶためにニコを作ったならば、今私と山の神はある種繋がっている特別な関係と考えて問題ないかもしれない。大切なのは心だとニコも言ってた。祝詞で反応するならば、ダイダラボッチもまた、神だと思うの」
ニコ「それならお父さんから貰った祝詞で呼ぶね」
シルヴァは白い瑪瑙をニコに渡した。
風が冷たい。起き上がれば、薄霧の向こうの空が暗くなっている。少年はあなたの手を取って、山道を歩き始める。足の下を動くものがある。
地の下に張り巡らされているものが、起きたのだ。空気に通うものがある。見えない生き物たちが活動を始めたのだ。この世でない香りがする。生と死を行き交う者達が、唄っているのだ。山は生きている。
少年は背筋を伸ばす。山自体が大きく動いた。少年の声が、空気を震わせる。音の波紋が広がる。振動は強まる。黒く断たれた谷の底が揺らめいた。
ニコ「お父さんが対話をはかるなら、僕はそうする。でもお母さんに危害を加えるようなら、僕は大きなお父さんをこの刀で斬るよ」
いつの間にかシルヴァの懐から、刀をとっている。
シル「ニコ。それは親である私の役目よ。もし私の身体が耐えられなければ、ニコは自分の道を生きて」
地から何かが染み出し、ゆっくりと身を起こす。大きな体が立ち上がる。それは、黒く透明な、あなた達をはるかに見下ろす異形の姿だった。
顔も手足もない、しかしそれはあなたから見れば、ヒトに似た形のように捉えられた。何にも形容し難く、全ての生物の形でもあった。
シルヴァ 1D100<=72 【正気度ロール】 (1D100<=72) > 99 > 失敗
シルヴァ 1D50 (1D50) > 2
立ち尽くす異形は、あなた達を認識した。
ゆるり、と大きな、一つの山にも見える腕が伸ばされていく。
シルヴァはそれに恐れも抱かず、真っすぐな瞳で見ていた。
シルヴァ CCB<=50 【信用】 (1D100<=50) > 50 > 成功
シル「山の神よ。どうか、私の声に耳を傾けて下さい。その力を光の方へと引き返し、この世界と共存して下さい」
シルヴァ CCB<=65 【幸運】 (1D100<=65) > 46 > 成功
シルヴァ(孤独だった私に光をくれたのはヴァレンだった)
シルヴァの願い、共に生きたいというヴァレンの願い。
ニコの、蛇神の愛が届いたのだろうか。
その振り下ろそうとされた手は、押しつぶすことなく止まっていた。
そして、ダイダラボッチの黒い体躯が輝きだす。山の神となったダイダラボッチから、八百万(数の限りなく多いこと)の光が飛んでいき星を降らした。
*
意識は、絶える。
目を覚ます。
あなたがいたのは尾根ではなかった。
山の中腹にある、開けた地点にいる。
空を落としたような、美しい夜空が広がって見えた。隣にはヴァレンが倒れている。
ダイダラボッチに知性が芽生え始めたのか、純粋なる想いが、そして愛が届いたのか返してくれたようだ。
頭の中で声がする。
『シルヴァ、記憶が戻り分かった』
『お前は、かつて命を助けてくれた子供だったんだな』
『鎮めてくれてありがとう、お礼にそいつの記憶をお前に託す』
聞き終えるか否か、記憶が溢れ出す。想いを告げた夜だった。
ヴァレン(シルヴァといられるのは最後か)
ヴァレン(愛している)
シルヴァの心にヴァレンからの尊敬や愛しさが溢れているのが流れ込んでくる。蛇神の目から映る自分の瞳の中で、ヴァレンが泣いていた。
ヴァレン(愛している、離れたくない)
ヴァレン(それを伝えると分かれた時に辛い思いをさせてしまう)いや、逃げなのかもしれない。でも、「気持ちいい」という言葉に紛れさせることにとどめた。
シルヴァ(……ヴァレンらしい)
きっと、恐れていたんだろう。
古くからの仲である私へ、大切な関係を壊すかもしれない、愛の言葉を伝えることを。しかしそれは、裏の世界で生きてきた ヴァレンの誠実さなんだ。
何時だって、自身より私のことを優先して、 ヴァレンは優しさを向けてくれた。
シルヴァ「ヴァレン、……大好きよ」
もう、何度伝えたのかも思い出せない。すやすやと寝息をたてている彼の頬に、はたとシルヴァの涙が落ちる。
シルヴァ「愛してる」
それでも。足りなかった。この大きすぎる愛は、何度命を終えても伝えきれることは無いのだろう。穏やかに眠り続けるヴァレンの瞼にキスをする。
瞼が少し震えて彼は目覚める。
ヴァ「……? 俺は生きているのか」
シル「山の神と蛇の神が戻してくれたの」
ヴァ「また対話をしたんだな」
見てきたわけだはないのに、ヴァレンはそう悟る。
ニコ「大きなお父さんは静まったね。山も、川も綺麗」
シル「ここはニコの故郷だね」
ニコ「うん、ここで生まれた」
シル「きっとここに戻ってくれば、あなたの両親が守ってくれる。ただ、ここはまだ生物が少ないから、一緒に暮らす?」
ニコ「うん!! ……今は分かるよ。ぼくの中に流れてるのは二人の血だよね」
ヴァレンはニコを背中に乗せて、彼はあなたの手を取る。強く引くでもなく。軽く握る。彼にゆるく手を引かれ山を下りる。道はなだらかで、思っていたよりも歩きやすかった。
黒曜 「ぶるるん……」
ヴァ「お前が運んでくれるのか?」
黒曜 「ぷ~っるっる♪」
黒曜にニコを乗せると、ニコが楽しそうに笑う。
シル「3人で旅行しよう。ニコは賢いから学校は不要かもしれないけど、人との関わりにはいいかも」
ニコ「学校? 行ってみたい!」
シルヴァは既に未来について考えているようだ。
近い将来、この山にはヒトと魔族とヘビが共存する豊かな村となる。
シルヴァ「ヴァレンと出会えて嬉しい。だから、沢山頼ってね」
記憶に強く残る甘い思い出を口に出す。
ヴァレンは唐突な言葉に、泣いたあの夜を思い出して照れて笑うだろうか。
シルヴァは上手く伝えられなくても、それでも良かった。
その中にある、尊い愛情を知っているから。
おしまい
二人の回る空うさぎ
また月が昇る
//この世界は続いてるけど
今日が終わりだす
//自分の世界は終わる
願い 奏でる
//シルヴァを生かしたいと願う
言葉をのみこむ
//蛇神との契約によって、言葉を飲み込む
//愛してる、離れたくない、という言葉を飲み込む
Friday night 泣き出す
//心が泣いてる
君はまだ大丈夫
//シルヴァはまだ、消化されてないから大丈夫
駆け出せ足音
//シルヴァのために休める場所探しに行ったり、助言など奔走する
明日を変えたい
//生かせるように、最悪の未来を変えたい
あぁ なら なら
まだ まだ まだ
//なら、まだ自分の存在が消えるわけにはいかない
また夜空一周に
満たして欠いて流れる
//自分を除いて、シルヴァの時間が元世界で進んでいく
時を眺める
だけじゃ笑えない
//それでもいいと思ってたが、シルヴァがいないと幸せになれないと気づいてしまった(笑えない)
回る空うさぎ
//ヴァレン→シルヴァ→山の神(蛇神)→ヴァレン で救いが輪廻してる
君と明日はイコール
//自分にとって 未来 = シルヴァ だった
負けるな明日に
//それでも、世界のためにも、シルヴァのためにも、一緒に居たいという誘惑に負けてはいけない
背を向けたくない
//決めたからには、やり遂げないといけない
あぁ から から
いま から から
//だから
//いまからでも、最期まで
遥か 月を目指した
//シルヴァを助けるためにシルヴァの魂のいる場所を、目指した。
//(月が綺麗ですね=愛してる人)
今日の空は
彼方 西に流れた
//シルヴァの時間が無事に進んだ
//進んでしまった。
もう届かないや
届かないや
//終わってしまうから
//もう届かないや
涙 星を濡らした
//(泣けるようになった)
今日の空は
彼方 夜に流れた
//終わったんだから
もう泣くなよ
//もう、泣くなよ
//(泣くなと言われた)
//(何時しか自分自身でも泣くことを禁じたのに)
//(シルヴァが初めて涙を拭ってくれた)
遥か 月を目指した
//シルヴァはヴァレンを助けるためにヴァレンの魂を目指した
//(月が綺麗ですね=愛してる人)
今日の空は
数多 星を降らした
//神様が魂を開放してる
あぁ 夢じゃないや!
//自分が目を覚ましたのは
夢じゃないや
//夢じゃないや
感想
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